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Column キレイの法則
~366日★ココロ元気

“初めての体験”がこれからを元気にする

横森理香

Profile横森理香Rika Yokomori

作家・エッセイスト。1963年生まれ。多摩美術大学卒。現代女性をリアルに描いた小説と、女性を応援するエッセイに定評があり、近著『40代 大人女子のためのお年頃読本』がベストセラーとなる。代表作『ぼぎちんバブル純愛物語』は文化庁の主宰する日本文学輸出プロジェクトに選出され、アメリカ、イギリス、ドイツ、アラブ諸国で翻訳出版されている。最新刊は『いますぐゴキゲンになる60の言葉』。
また、「ベリーダンス健康法」の講師としても活躍。主催するコミュニティサロン「シークレットロータス」でレッスンを行う。公式ホームページ
http://www.yokomori-rika.com
美と健康の雑誌『MyAge』のオンラインメディア『OurAge』で「コーネンキなんてこわくない」コラムが不定期連載中! 
http://ourage.jp/column/kounenki_no_chie/55492/

 半世紀も生きてくると、なんでもやったことがあることばかりで、人生新鮮味が欠けてくる。必要最低限のことと、自分の一番気に入ったことしかやらなくなるので、生活もワンパターンになりがちだ。
それはそれで、日々を丁寧に生きていればそれでよい。が、新しいことにチャレンジすることで、こんなにも感動が味わえるのか! と最近知った。生まれて初めて、自分の猫をキャットショーに出陳(初めて知りましたが、キャットショーの場合「出陳」というらしい)したのである。


 一月に十八年半飼ったヒマラヤンのハニ子が死に、そのブリーダー内池さんに 電話をした。娘がペットロスにならないよう、すぐに新しい猫をお願いしたいと、泣きついたのだ。内池さんは既に引退なさっていたので、彼女の猫が行っている先に何軒か聞いてくれた。


 ちょうどタイミング良く、千葉に四カ月の男の子がいた。エキゾチックロングヘアーのパンダちゃんだった。黒のブチが入った白い猫だが、その様子がまるでパンダみたいなので、パンダと呼ばれていた。うちに来てから色々名前を考えたが、結局パンダ以外に思いつかず、パンダのまま定着した。


 エキゾチックはペルシャとアメリカンショートヘアーの掛け合わせで、まだ比較的新しい種だ。ショートヘアーとロングヘアーがいるのだが、パンダちゃんのずんぐりとした体形、立派なしっぽ、大きなお目目とつぶれた顔はまさに理想的なエキゾとされ、当初は繁殖したブリーダーさんがキャットショーに出す予定だった。が成り行きで、私が連れて行くことになってしまったのである。


 そのキャットショーは「ジャパン・リバティ」の三十周年記念だった。日本にも色んなキャットクラブがあり、それぞれキャットショーを開催している。誰でもエントリーすれば出陳でき、純血種じゃなくてもハウスホールド部門に出せる。猫ちゃんの可愛らしさを競うコンテストなのだ。


「だ、大丈夫なんですかね?」
 とにかく血統証付きの猫だって、普通の家猫と同じにザックリ飼っている私である。
「あー、大丈夫大丈夫。前日にシャンプーに出して、連れて来てくれるだけでいいから。うちも二匹連れて行くから、あとのことは私が全部しとくからね」
 と、パンダの里のお母さんもザックリしていた。しかし・・・。


 猫を連れて浜松町の会場に行くというだけで、まるで大学受験のような緊張感だった。タイミング悪く娘と夫はキャンプに行くことになっていて、一人だ。ネットで会場近辺の駐車場を調べ、時間を計算し、災害時用の、背負うタイプのキャリアーをクローゼットから出し、埃を払った。
 しかし、いくら里のお母さんもいるとはいえ、ほとんど知らない人の中に猫一匹連れて行く、というのも不安なので、山口に住むブリーダー、穂積さんとラインで連絡を取った。穂積さんは内池さん引退後、猫を引き継いだ人だ。


「キャットショーは初めてなので、私が”借りて来た猫”になりそうです」
 とラインすると、
「友達の名古屋の方も出陳されるので、みなさんで楽しく過ごしましょう」
 と言ってくれた。それでも緊張していて、夜中に何度も目が覚めた。

左がパンダちゃん、右はパンダちゃんの妹モエちゃん

可愛すぎる猫の祭典

 浜松町の会場には、百匹以上の猫たちと飼い主さんたち、そしてジャッジとスタッフが、賑々しく準備をしていた。恐る恐る会場に入ると、
「あー、こっちこっち」
 里のお母さんが既に控えケージを用意し、待っていてくれた。パンダの妹モエちゃんと、まだ半年のミーちゃんが既にそれぞれのケージに入っている。控えケージには、他の猫と目が合わないよう、ふりふりのレースでカバーがかけてある。パンダのケージカバーは内池さん作のものだった。


「しまってあったのを、パンダに使おうと思って洗ったの」
 そもそもパンダも、内池さん宅からもらい受けたエキゾのロングが元祖なのだ。その大元となった猫は、内池さんがアメリカまで渡り、CFA(歴史ある世界最大のキャットクラブ)のジャッジ、トレバサン氏の紹介で購入してきた。そんな縁があり、今回、
「トレバサンの紹介してくれた猫が日本で今、花開いたところを見たら、彼も喜ぶと思いますよ」
 ということになったのだ。トレバサン氏は二日目の審査に出る。


 二日間で十人のジャッジが審査し、競い合うのだ。チャンピオンシップ初参加の猫は、六ラウンド出場するとチャンピオン申請ができるという。いくつものショーを回り、200頭のチャンピオンに勝つと、グランドチャンピオンになれるらしい。


 エキゾチック、ペルシャ、アビシニアン、メインクーン、アメリカンショートヘアー、シンガプーラ・・・様々な猫が参加しているが、どれも見たことがないぐらい可愛い。


 穂積さんのシシェール君など、
「か、神か」
 と思うほど立派だった。パンダと同じ種類だというが、次元が違うのだ。その隣の、名古屋から来た長谷川さんのアンちゃんも、同じ種類のキャリコ(三毛)だが、ふっさふさ。どちらも、その毛足の豪華さたるや、私にはペルシャにしか見えない。
 長谷川さんはキャットショーで穂積さんと会うたんび、猫のイロハについて教えてもらっているので、穂積さんを師匠と仰ぎ、隣のケージで一緒にグルーミングをしている。またこのシシェール君とアンちゃんが、慣れた調子で少しも嫌がらず、コーミングさせるのだ。


 パンダのは朝、里のお母さんがやってくれた。
「こうやってね、死に毛を根元から抜いてくのよ」
 櫛を根元に入れて、逆毛を立てるようにぐわっしとコームして行くのだ。もちろん、パンダは嫌がって必死で逃げようとした。慣れていないからだ。
「それでここの毛もカットするの」
 お母さんは耳の上の毛を丸くカットした。耳の丸い猫のほうが点がいいので、ショーの前はカットするのだ。


 一応、ふさっとしたパンダを連れて、いくつかのリングを回った。普通に抱いて行くと、
「あー、ダメダメ、猫はこういう風に抱かなきゃ」
 と、穂積さんに注意される。股と脇に下から手を入れて、せっかくふさっとさせた毛が寝ないように運ぶのだ。さらに、毛足の長い猫は、審査ケージに入れる直前に、一振りして毛に風を入れる。


「これだけで、得点がだいぶ違うからね」
 長谷川さんが解説してくれる。シシェール君もアンちゃんも、せっかくグルーミングした毛を舐めちゃわないように、手作りの派手なカラーをつけている。二匹ともファンシー。エリザベスカラーとはよく言ったものである。

全国から集まり、にぎやかに準備/番号が呼ばれたら審査ケージに/ジャッジ・トレバサン氏審査中。選んだらリボンをつける

アンちゃん、毛をふわふわにされてます/こちら、シシェール君、エリザベス一世のよう?

パンダの逆転ホームラン

 一日目は、惨敗だった。全てアンちゃんが一位でパンダが二位という成績で、ファイナルに残ることはできなかった。一位を取ると、全種類の一等賞が競い合うファイナル戦に出られるのだ。そこで得点されたものが、メダルのついたおリボンとなり、グランドチャンピオンへの架け橋となる。


 しかし自分の猫が点数取れなかったとしても、超個性的なブリーダーさんやジャッジ、可愛い猫をたくさん見られて、それだけでも楽しい一日だった。疲れ果てて死んだように寝る、という経験も、久しぶりのことだったような気がする。


 てなわけで嫌がるパンダを連れて、二日目も馳せ参じた。
「さ、弁当食ったら帰るか」
 出陳者には弁当も出た。スポンサーからいろんな猫グッズや、お茶やお菓子の用意もあるので、一日、猫を見ながらお茶してお喋りするという、キャットショーはまさに猫好きの女子大会なのだった。上は七十代? それでも元気に猫連れて来ているかと思うと、人生まだまだこれからだな、と思えた。


 六ラウンド出るとチャンピオン申請できるので、朝の一ラウンドで帰ろうとした。が、そこからがパンダの本領発揮だった。弁当食べてる最中に、二ラウンド目に呼ばれたので、ま、まだいるから出すか、ぐらいのつもりで出したら、アンちゃんと逆転、一位を取り始めた。


「え~、うっそ~」
 帰るに帰れなくなり、ファイナルに。初めておリボンをもらった感動で欲が出て、最終リングまでいることにあいなった。里のお母さんもお父さんも、見に来ていた内池さんも喜んでくれた。のみならず、ライバルのはずの長谷川さんも、穂積さんまで協力してくれ、トレバサン氏の審査の前には、パンダの目の上の毛までカットしてくれたのだ。
「こうすると目がもっと大きく見えるからね」


 ジャッジによっては、全くパンダに興味がない人もいたが、可愛いと思ってくれるジャッジは、「連れて帰りたい」とまで言ってくれた。それが、親バカとは知りながら、本当に嬉しいのである。そして一匹の猫が高得点を取り始めると、全員で盛り上がって行くという「場」を、初めて経験した。コンペティションは好きじゃないが、全員が猫好きで、対象が猫だけに、こんなハッピーなコンペティションもあるのだ。


 結局、パンダは三つのファイナルに残り、六つのおリボンをいただいた。これがまた、いやらしさ抜きに誇らしいのである。今だに私のデスクの前に飾ってあり、スマホの待ち受け画面にもなっている。


 五十二になって、新しい世界を知った。猫を連れてっただけだが、何かをやり遂げた充実感と、清々しい気分が私を満たしていた。

目の上の毛をカットされるパンダちゃん

勢いづいて六個のリボンをGET!

ジャッジのエツコさんと。審査の後は一緒に撮影がお約束♡

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